子供のころ田原の海では、海苔が採れました。

朝晩本当によく冷えます。今時分が年中で一番寒い時でしょうね。しかし段々と日差しの光が強くなってきました。僅かですが日没が伸びています。私のお店からは田原港の海の様子が見えます。この季節は海が荒れて毎日、白波が立っています。強い西風が吹き荒れ、さながら北陸の、どす黒い荒れた日本海の様です。
 むかしこの海では冬場は海苔が盛んでした。どこの家でも、荒れた海に家族で海苔を採りに行くのです。私も子供の頃連れていってもらったことがありました。大人達には、いつも大反対されてなかなか連れていってはもらえませんでしたが、ある風のない穏やかな日曜日、兄と母にやっと了解をもらって船に乗せてもらいました。
 沖に出ると波も高く舳先から潮がざぶんざぶんと降ってきました。小さな木造船では本当によく揺れます。それでもあのトントンと鳴り響くエンジンの音が爽快で、波を切り開く強さがとても頼もしかったのです。
 ゆれる舳先の向こうには、小さな洲の丘や小さな島々が見えます。その小さな島には、草木が茂っていて、枝ぶりの低い松の木も茂っていました。後で聞いた話では、竜江の松だそうです。ここは昔から汐の流れが速く海難が多発していたそうです。その澪を漁師達は、祖先から口伝えに教えてもらっていたのだと思います。
 海苔の漁場は大潮の間に採るのだから潮の満ち引きは漁師にとっては死活問題です。のんびりしていたのでは、干潟の水がどんどん満ちてくるのだから、てぎわよくやらなくてはなりません。それでも冬の海です。
汐の引く一瞬に作業するのです。
 まだ潮の引かぬ海に兄と母がざぶんと飛び込みます。とても冷たそうですが、暫くすると慣れたのか海水が温かいのか網についた海苔を篭にどんどんと採るのです。太陽はほぼ真上にあり、お昼を知らせるサイレンが遠く小さく風に乗って聞こえてきます。
 おおむね篭が一杯になると、お昼ご飯を船の上で食べるのです。真っ黒な海苔の大きなおにぎりを口いっぱいにほおばるのです。たくあんをぱりぱり食べながら、潮の香りのおにぎりを、食べるのです。お腹がとてもすいていたのだから、本当においしかったです。
 やがて干潟も水面に覆われて、みるみるうちに満ちてゆきます。あの陸が海の中に消えてゆくのです。日が少し傾いてくると風が出てきます。錨は、打ってあるものの潮の流れで、舟ごと流されるようです。兄がもうそろそろ帰るぞと言い、ポンポン船のエンジンを力一杯回してかけます。
 もう周りの漁師たちも一斉に元の河岸へと帰るのです。
家に着くと今度は夜中海苔すき作業をするのですが、その作業はまた後日お話しましょう。



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